何故生まれたか、現状、未来像について
はじめに
植物工場は、2009年に到来した第三次ブーム以降、企業を中心に相変わらず賑わっているといえるだろう。植物工場が注目されている背景には、頻発する天候不順や異常気象、輸入野菜の急増と消費者の安全・安心への志向が大きい。さらに、原発事故によって放射能に汚染された地域や塩害の地域における安全・安心な農業の創出の問題がある。いま、被災地や原発地域における植物工場の整備による地域復興、新産業の創出から容易に想像できる。完全人工光型植物工場野菜の利点は安定供給、完全無農薬、極めて清潔など、ほぼ完璧に安全安心な点にある。しかし、採算性にはいくつかの問題が残されているのも事実である。まず生産コストがかなり高くつくので、様々な面でのコストダウンが基本的な課題になる。
次の問題は、基本的にはおいしく栄養価の高い野菜の栽培技術が要求される。無農薬・清潔というだけでは一部の流通を除き付加価値が認められないからである。しかしながら、完全人工光型植物工場を成立させるうえで一番の課題であった人工光源の光熱動力費がLEDの急速な普及で大幅に改善されつつあり採算性については好転している。特に最近、家庭用照明に注目されているRaが高い高演色性白色LEDは、光合成に有効な660nmの赤色成分を多く含み高効率を実現している事から更なる低価格化と低消費電力化に期待が持てる。すでにアグリホワイトという商標のLEDも登場している。また、現時点でもVFの低い赤色LED単色の植物工場であれば、栽培品種は限られるものの、昭和電工(株)の4元系赤色発光素子の開発によって、採算性の高い工場が実現できている。味や栄養価、形態についても、植物の様々な光応答反応を利用して特定の波長のLED光を効率良く植物に照射する事で制御が可能になりつつある。
1.概要
1.1 植物工場の種類と比較
植物工場とは、野菜や苗を中心とした作物を施設内で光、温湿度、二酸化炭素濃度、培養液などの環境条件を人為的にコントロールし、季節・場所にあまりとらわれずに安定生産するシステムのことである。そのため、ほとんどの植物工場で制御しやすい水耕栽培を使う。一般的に認知されている植物工場の定義としては、大型かつ環境制御がより高度で、ある程度の自動化が施されており、その結果、周年生産と省力化を実現しているシステムである。
植物工場には大きくわけて、完全人工光型植物工場(完全制御型植物工場)と太陽光利用型植物工場の2種類がある。完全人工光型は、太陽光をいっさい使わずに人工光のみを利用し、温度、二酸化炭素、培養液環境など他の環境条件を含めて、完全に人工的にコントロールしようとするシステムの総称である。
また太陽光と人工光を併用する植物工場については、いまは単に人工光併用型とか補光型と呼ぶ場合が多いが、当初はハイブリッド型とかいわれ、分類がすっきり二分されていなかった。
次に完全人工光型植物工場との違いと比較についてだが、太陽光利用型植物工場は、人工光源の変わりに、太陽光という不安定要素をかかえている。つまり、栽培環境における光環境については天候次第になってしまい、従来の農業生産と本質的には変わらないのである。当然、収量の正確な予測と環境制御も困難で、栽培者の勘と経験にどうしても左右されてしまう。そのため、異業種が参入するには、ハードルが高く、工業生産の定義から考えると微妙である。加えて、無農薬栽培が難しく、太陽光が当たらないと栽培できないため、平面による栽培になってしまい、敷地を多く必要とする割に、単位面積あたりの収量が小さい。ただし、人工光併用型の植物工場ではこの点は多少、改善される。
しかしながら、太陽光利用型植物工場が有利な点も明確である。第一に、完全人工光型植物工場の運営で一番の課題である光源の消費電力が太陽光を使用する事で無料になってしまうことである。とはいうものの、夏場は、太陽光の影響で温度上昇が大きく、冷却のための空調電力代が高くなる問題をかかえているためLED光源の技術進歩によって逆転する可能性がある。第2に、栽培可能作物が多いことが非常に優れている。完全人工光型では、リーフレタスやハーブ等の葉菜類ぐらいしか栽培できないのに対して、太陽光利用型では、果菜類全般や、コストさえ合えば穀物も含めて何でも栽培可能である。ただし、水耕栽培を使っているという理由で根菜類は、浸透圧の問題で栽培可能品種は限定される。
一方、完全人工光型植物工場は、完全に環境制御された空間(室内)で光源についても、太陽光をいっさい利用せずに、蛍光灯やLEDなどの人工光のみによって栽培するシステムである。つまり、天候に全く左右されずに、完全な周年安定生産が可能で、当然、クリーンルームのような閉鎖空間を利用すれば、完全無農薬栽培が容易に実現できる。コスト的に果菜類や穀類の栽培に不向きだが、葉菜類、および各種苗生産には大変向いている。
完全人工光型植物工場の利点についても明確である。天候に全く左右されず、場所を問わない。場合によっては、空いた倉庫や商店街、飲食店内などいかなる空きスペースにも設置できる点、栽培棚をビル状に高層化する事で、狭い土地でも大量生産できる点である。また、栽培経験がない素人でも、一般生菌数が少なく、常に安定した品質の野菜を生産できるため、異業種が新規参入しやすい点である。このような背景から、多くの企業は、太陽光利用型よりも完全人工光型に関心を持っているようであ。最近では、日産1000株以上の大型の完全人工光型植物工場だけでなく、飲食店が1日で使用する日産100株程度生産する、店舗併設型小型植物工場や店産店消植物工場の人気も高い。
1.2 人工光型植物工場野菜の品目と選定基準
人工光型植物工場は、栽培光源の消費電力が大きく温度管理も必要なために、生産コストの空調電力代が占める割合が大きい特徴がある。つまり、栽培作物は、採算性を考えると短期間で栽培可能かつ、可食部が多いリーフレタス等の葉菜類に限定される。また毎日、安定生産する事から、連作障害を発生させない為に水耕栽培を用いる。根菜類は、不可能ではないが、肥大化する根部にある程度の圧力を加える為に培養液の流量制御や特殊な支持材(培地)を開発する必要性がある。最大の問題は、浸透圧の問題で、どうしても裂根する作物が多いため採算性の問題で、候補から外れる。
次に、葉菜類なら何でも栽培作物として最適なわけではない。光量が弱く、短期間で重量をかせぐ事が可能でなるべく輸入できない製品が好まれる。このような理由から、リーフレタスを中心に植物工場では作られているわけである。
なかでも、不動の一番人気がフリルレタスである。フリルレタスは、グリーンリーフの一種だが、葉先がぎざぎざでフリル状になっている。フリルアイスと呼ばれる事も多いが、フリルアイスは、フリルレタスを雪印種苗株式会社が販売する時に使用している商標で基本的には同じものである。ただし、フリルアイスは、改良されており、一般的なフリルレタスよりも、葉の先に細いフリルの切れ込みが深く、同じ重量でも見栄えが良い傾向が強い。種子価格はフリルレタスの2倍程度と高価だが、付加価値を優先して採用する工場も多くある。また、植物工場では採算性の問題から結球させるために低温管理が必要な結球レタスは、あまり生産されないことから、食味が結球レタスに似てシャキシャキした歯ざわりが得られ、日持ちが良いフリルアイスは重宝されている。加えて、栽培期間がサニーレタス等より5日間程度長くなるものの、栽培エリアの単位面積あたりの重量が大きく、葉先が縮れている分少ない量でもボリューム感と独特のインパクトを出せるので、サラダにした時の見栄えが良い理由でもある。
次に生産量が多い品種は、グリーンリーフとロメインレタスだが、植物工場が建設されている地域や利用している流通によって順番が変わる。例えば東北地方などでは、ロメインレタスがグリーンリーフよりも売れるようだが関東地方ではグリーンリーフの方が売れている。グリーンリーフは、品種というよりも緑色のリーフレタスの総称で販売されている傾向が強くあるが、一般的にはタキイ種苗のグリーンウエーブや中原採種場(株)のグリーンリーフを栽培している工場が多い。このようにフリルレタス(フリルアイス)、グリーンリーフ、ロメインレタス(コスレタス)の3種類のリーフレタスを生産する工場が多い。リーフレタス以外にも、最近では、ホウレンソウやイチゴの様々な品種が栽培されているが、基本的にベビーリーフとして販売される品種の方が多い傾向がある。
1.3 注目されているベビーリーフ
LED植物工場は、野菜の価格競争が激しく、日産3千株以上の大型植物工場でないと採算がとれなくなってきているが、日産千株程度の植物工場が一番多いのも事実である。そのような工場が、利益を確保するために考案したのがベビーリーフのミックス野菜である。
ベビーリーフとは、様々な葉菜類の若芽を総称しており、様々な品種の種子を混合して販売されることもある。ベビーリーフミックスなどと名前がつけられた種子も存在する。ただし、ミックスした状態で播種すると収穫時期によって収穫される品種に偏りがどうしてもでてしまうために、数品種を個別に栽培して、パッケージの段階でミックスする工場が圧倒的である。
ベビーリーフのミックス方法についてだが、ベビーリーフの品種選択は、植物工場のノウハウの一つになっている。ミックス野菜にする場合の品種選定は、各植物工場に特徴があるものの、彩りを重要視する傾向がある。スーパー等に並んだ際に、赤、緑、黄色系のベビーリーフを組合せ目立つ工夫がされている。加えて、味や香り形態の組合せにも工夫がみられる。
そこで、ベビーリーフで多く生産されている品種と簡単な特徴を紹介する。まず、ミックス野菜の場合、最低でも10品目必要であるから、植物工場の主要生産作物であるフリルレタス、サニーレタス、グリーンリーフの若芽は、ベビーリーフとしても販売されるケースが多い。純粋にベビーリーフとして栽培される作物の中には、香りや味覚の向上の為にハーブ系も含まれており、ゴマの香りとクレソンに似たほのかな苦みがあるルッコラ(ロケット)や独特な香りがするバジルが代表的な作物である。他にも、味に辛味を加える目的で、わさび菜(レッドマスタード、グリーンマスタード)又はからし菜(赤からし水菜、ピリカラ菜)が選択されている。また、苦みを出すために、イタリアンレッド(チコリー)又はエンダイブを加えたり、ジューシーな味わいや栄養価の宣伝を目的としてホウレンソウやアクが少なく食べやすいピノグリーンを加える事もある。
一番重要な、彩りを良くする工夫として赤色や黄色系の葉が収穫できる、レッドロメインレタス、赤軸ホウレンソウ、ビートを加える植物工場が多い。特にビートは、葉酸、カリウム、ポリフェノールを豊富に含む品種があり、ミックス野菜では、必須品目の一つである。重量を増やす事も大変重要であるから、重量が大きくなりやすい、水菜を入れるのが一般的だが、名前の通り水分を多く含む為に細菌が繁殖しやすく、日持ちが悪くなる事から、栽培生育期間が短いチンゲンサイが入れられる事もある。
ミックス野菜の代名詞と言うとキャベツを連想すると思われるが、植物工場では生産が難しいため、キャベツの変わりに風味が似ているタアサイ、レッドケール、タアサイの亜種であるレッドパクチョイを加える事がある。どの植物工場も、これらの組合せをノウハウとして、味、香り、彩、形態、重量を工夫した独自のミックス野菜を販売している。
2. 植物工場関連技術解説
2.1 完全人工光型植物工場用光源に期待されてLEDの現状
近年、白色LEDは生活照明向け用途で急速な進化を遂げ、ついに光束効率で蛍光灯を超えた。それに伴い、液晶テレビのバックライトをはじめとして様々な家電製品にLEDが採用されはじめている。同様に、LEDは完全制御型植物工場の新しい光源としても注目されている。世界初のLED植物工場のシステム「コスモファーム」を導入したコスモファーム岩見沢の14年間の連続稼働実績は、LED植物工場に新規参入する企業にとり、頼もしい存在となっている。スタンレー電気(株) の植物工場向けLED面光源パネルも大成建設(株)の植物工場ユニットに組み込まれ、順調に売れており、複数の植物工場の光源に採用されている。最近では、評判の高い昭和電工(株)の高効率赤色LED素子“HRP-350F”を使用した灯具を搭載したSHIGYOユニットが急速に普及拡大している。
このように述べると、LEDが植物栽培用光源として期待できる理想的な製品に見えるかもしれないが、実はそう単純ではない。それでも、一時期は、低価格化、高出力化が期待できたのが、YAG系の白色LEDであり、赤色成分の波長が蛍光灯よりも少なく、植物栽培に不向きで危惧された事を考えると将来性に強い期待がもてる。現在、家庭用照明に求められているのは、太陽光と比較して物を見たときに、太陽光に似た色の見え方をする平均演色評価数(Ra)が高いランプであり、そのよう照明の波長成分は、植物栽培に十分な赤色成分をもっている事が多い。当然、人間生活にとって一番ストレスなく良好な波長分布を持っているため、植物工場内での作業効率も大幅に向上する。
しかし、現在主流の赤色LED単色や赤青LEDの組合せで効率良く栽培する場合には、課題がでている。植物の成長にとって欠かせない光合成反応においては、クロロフィルの吸収ピークである660nm近辺(650~700nm)の赤色光が最も強く影響する。また、主要なランニングコストである電力代を考慮に入れると、VF値が低く高効率な赤色LED単色で栽培するのが、工場経営の観点から考えると良いのだが、量産される赤色LEDの波長分布に問題がでている。日常生活で一般的に使用される赤色LEDの波長は620~630nmであり、植物栽培に最適な660nmの赤色LEDは、従来量産されていたものの昨今では用途が少なく、製造しているメーカーが減少しつつあるからである。その結果、いま以上の低価格化は望めず、特別用途に限定された製品扱いになることで、初期コストが高演色白色LEDよりも圧倒的に高くなる傾向が強いのである。
このような背景から、将来的に単色のLEDを組み合わせることで特定の波長の光を効率良く植物に照射するシステムが普及するのか、人間の作業効率を優先した高演色白色LEDが普及するのかは、どちらも主流になる可能性があり、現時点では判断がつかない。
さて、LED単体についての問題も山積みであるが、照明装置に加工するさいには更なる課題が持ち上がる。植物栽培用の照明は、多湿の環境で光合成に必要な大光量を供給するために発熱するほどの大電流を流す。さらに24時間連続使用することから、市販のLEDではその発熱と多湿の環境下に耐えうる照明設計が困難なのだ。複数の照明メーカーから市販されているLED照明も同様に最適な照明設計が行われておらずLEDの特性が生かされていない(これがLEDメーカーの保証している寿命が得られない理由)。その上LEDは使用する素子のサイズや指向性、冷却、防水方法が、その種類により異なるため、LEDの製造ラインを持たない照明メーカーが、これら全てを把握した上で植物栽培に最適な照明を設計することは困難なのである。特に植物工場のように栽培面上のPPFDを100μmol・m-2・s-1以上と高くするとLEDの発熱が大きく冷却が不十分となり、その結果、素子の劣化が早まるために装置の寿命は短くなる。加えて、現状の植物工場のように市場規模の小さな産業に参入する意志があり、かつ、LEDを製造することが可能なノウハウや生産設備を持つ一部上場企業は少ない。仮に興味を持ったとしても植物栽培そのものの知識が不足しているために植物栽培の過酷な環境が理解できていないため、植物栽培に適したLEDの開発は困難である。つまるところ、植物栽培用LEDについては、話題ばかりが先行していてシビアな現実は見えていないのが実情なのだ。
2.2植物工場の運用に必要な環境制御項目(植物工場生産に最適な栽培環境)
ここでは、植物工場を運営、建設するうえで重要な環境制御項目を解説する。
2.2.1 光
光環境は、光合成速度や蒸散速度、養分吸収等に影響を与える。まず、植物工場の現場では、消費電力が低く、植物の様々な光応答反応を効率良く利用している照明装置を導入する事が重要である。設置の際も栽培面に波長ムラがなく均一かつ減衰の少ない光が供給できているか確認する必要がある。そして、調光装置で栽培作物に対して無駄のない最適な光量を与える事も重要である。もちろん、栽培棚についても棚と棚の間隔は、栽培植物に可能な範囲で近接させる必要があるし、光が棚の外へ漏れないような反射板の工夫や水槽と栽培パネルの色を反射しやすい色にする必要がある。加えて、精度の高い定評のある光量子計で光量を測定する必要がある。ただし、遠赤色光の波長成分を管理する必要がある場合は、著者の把握している限り、すべての光量子計で測定範囲外になるため、コニカミノルタのCL-500Aのような信頼性の高い分光放射照度計の数値から光量子へ換算する必要がある。
2.2.2 温度
光合成速度や呼吸、培養液の溶存酸素濃度の変動、湿度の変動に関与する事で、作物に対して2次的な影響を及ぼす。そして、植物の養分吸収率を変化させ、生理障害に発展する事もあるために最適な温度管理は必須である。栽培試験や光合成速度の測定によって目的とする栽培作物の最適な温度を見つける。ただし、基本的に葉菜類の場合は、22~25℃で管理しているところが多い。注意すべき事は、多層のLED栽培棚の上層と下層の温度差を3℃以内にし、なるべく全体の段を一定の温度で均一になる様な配慮が必要である。栽培棚の高さによっては、上層の温度が高くなるため、水冷や送風機で下層から空気を運ぶ工夫が必要となる。
2.2.3 培養液温度
培養液の温度は、栽培空間の温度も変化する事から大変重要である。培養液の温度管理が厳密であれば、棚の温度差も一定になりやすく、空調機器による温度管理での問題がでにくくなる。
培養液温度は、溶存酸素量を決定しており、高温になると、酸素が培養液に溶け込みにくくなり、根の酸素欠乏を引き起こし、養水分吸収の低下や植物ホルモンの合成阻害につながる。その結果、根腐れや生育抑制、形態異常を引き起こすわけである。作物や品種ごとに最適値があるが、15℃~25℃の範囲で作物に合わせて制御する事が望ましい。
2.2.4 湿度
植物工場では密植栽培の恩恵で湿度を管理しなくても、栽培できてしまう事から、生産者によっては、管理していないところも多い。しかし、湿度は光と同様に気孔の開閉に関与しており、湿度が高いと蒸散が活発になり、気孔開度が大きくなる。逆に、空気が乾燥し、湿度が低いと、体内の水分を保持する為に蒸散を抑制し、気孔開度が小さくなる。また、湿度が高い環境は、蒸散が活発になる事から、生育が良好になる事が多い半面、野菜が水っぽくなる現象や葉が柔らかくなりすぎる現象が発生する。葉表面も濡れる為に一般生菌数が多くなる傾向がある。逆に低湿度だと、葉が硬く、葉の濡れが抑制されるために、葉面で細菌の増殖が抑制され、一般生菌数は少なくなる。ただし、気孔開度が小さいために炭酸ガスの影響や風の影響が得られなくなり生育の抑制や生理障害が発生する。このように、湿度は、低すぎても高すぎても問題がでる管理が必要な重要な栽培環境なわけである。最適値は、作物によって異なるものの、65%~70%で管理するのが好ましい。
2.2.5 風速(空気流動)と二酸化炭素施用
LED植物工場では密植栽培されているために、栽培面上の空気が動きにくくなり、二酸化炭素の濃度ムラや二酸化炭素不足に陥る事もある。
一般的に、無風状態や密植状態では葉面境界層ができ、二酸化炭素の施用効果が弱くなる。このように炭酸ガス濃度と空気流動は、関連性が高い為に二酸化炭素施用とセットで考えるのが良い。
植物工場用光源として、LED照明が採用されるようになってから、植物の光受容体が求める最適な波長の光が供給可能となり、生育促進効果により二酸化炭素の重要性が高くなっている。葉菜類の場合、炭酸ガス不足に陥ると、生体重や葉数の減少、葉の展開角度が大きくなる傾向がある。植物によっては、葉肉の充実不足や葉柄が発達して軸ばかりになったり、極端な甘味不足になる事がある。よって、炭酸ガスを施用しない場合でも、炭酸ガス濃度計で24時間の濃度推移を把握する事が重要である。炭酸ガス濃度計は、校正して使用すれば、データロガー付きで3万円以下の製品でも十分実用的である。校正できない濃度計でも、外気濃度を約400ppmとして、外気濃度で補正する事ができる。
次に最適な気流速度は、育苗と栽培工程で異なるが、育苗に最適な気流速度が、風速0.2~0.3m・sec-1で栽培工程が0.6~1.0m・sec-1あたりである。この、植物の葉先がゆれる程度の数値を基準として最適値を検討するのが望ましい。最適な気流速度では、効率よく二酸化炭素を施用でき、使用量を減少させる事もできる。灯油を燃焼させてコスト削減するよりも、空気流動を管理する方が低コスト化できる。また、風は、葉の濡れや気孔に蓄積する微細なゴミを除去し、光合成と蒸散作用の促進効果があり、病原菌の繁殖も抑制する。
2.2.6 E.C(電気伝導度)
LED植物工場では、植物に最適な波長分布の光を効率よく照射可能なために、特定の肥料成分が極端に吸収される事もある。そのため、培養液の濃度と管理がより重要となる。培養液の濃度を示すのによく使われるのがECで、単位は、国際単位系でdS/m(デシ・ジーメンス・パー・メートル)が使われる。純水は電気を通さないが、培養液のように水に電離した物質のイオンが存在すると電気を通すようになる。よって、水にどれだけのイオンがあるかE.Cを測定する事で求める事ができるわけである。また、水の電気伝導度は溶解する無機塩類の量にほぼ比例するため養液栽培で使用する培養液の濃度を判断する指標となる。養液の交換時期の判断や追肥重量の計算に使用される重要な単位として使用されている。ただし、本来、ECは培養液の全イオン濃度の測定は可能でも個別の濃度が分からない為に目安程度として、イオンクロマトグラフとプラズマ発光分析装置(ICP)で培養液の成分をイオンごとに明確に数値化して管理できるのが理想的である。とはいうものの、高価な測定装置を導入する事は困難なので、イオン電極による測定や水質チェック用のパックテストを用いた比色試験程度は必要である。
次にECの目安は、培養液メーカー推奨の作物ごとの管理例を参考にすると良い。ただし、葉菜類を生産する事が多いLED植物工場では、育苗工程はEC1.2前後の低濃度で栽培し、栽培工程ではEC1.6~2.4で栽培するのが一般的である。また、特定の波長の光で栽培する場合には、メーカー推奨とは異なるECで調整する必要がある。加えて、培養液の各肥料成分が大幅に違ってきたと感じた時や、病原菌等で汚染された時は、速やかに培養液を全量交換する事が重要である。